これからの時代、子どもたちに本当に必要な力とは?
花王で最年少部長として、EC事業・DX推進などを担ってきた生井秀一さん。そんな生井さんが花王を退職し、2023年に挑戦したのが「民間人校長」の公募です。1,645人もの応募者の中から選ばれた生井さんは、2024年「茨城県立下妻第一高等学校・附属中学校」の校長となりました。
大手企業で輝かしいキャリアを築いてきた生井さんが、なぜ教育の現場に立とうと思ったのでしょうか。その背景には、社会の第一線にいた生井さんだからこそわかった、今の学校教育への問題意識がありました。
学校で育てるべき、未来を生き抜く力とは。
この連載では、生井さんに、これからの時代を生きる子どもたちに必要な力について伺います。

AIの急速な普及で大きく変わりつつある社会
生井さん AIの普及によって、知識レベルの正解・答えはすぐに出る時代になりました。これまでの教育は、正解があるものを限られた時間の中でいかに早く答えを出すか、その能力を身につけさせるものでした。しかし今は、それを全部AIにお願いできる。
働き方も、大企業に入って60歳で定年を迎えるのがこれまでの一般的な働き方でしたが、今はそうではなく、45歳定年という制度もあるし、副業をして複数の会社に関わるケースもあれば、キャリア採用で大手に転職するパターンもあります。
何が正解か分からない時代だからこそ、最終的には、自分を産んでくれた親に感謝し、自分自身が「これでよかった」と思えるような人生設計をしなくてはいけない――そんな時代に入ってきているのだと思います。
いまの子どもたちが大人になる頃、社会はどう変わるか
生井さん これからの社会では、人間にしかできない仕事の価値がより高まり、必要とされる力は大きく二つの領域に分かれると思っています。
一つは、ヒューマンスキル。人と向き合う力や、肉体労働を伴って人と関わる仕事、いわゆるソーシャルワーカーと呼ばれるような領域です。介護職やタクシードライバー、バスの運転手、職人などが挙げられます。
もう一つは、判断力です。答えがあるものについては、おそらくAIに任せることになるので、答えに対して判断を下す仕事です。組織で言えば、リーダーや管理職、企業経営など、その人自身が意思決定をしなくてはいけない仕事です。

実際、社会を支えるソーシャルワーカーの仕事は、今給料が上がっています。一方で、難関大学を出て大企業に入ったものの、職を失った知り合いもいます。AIに置き換わるからと新規事業をやめる会社が増え、仕事がなくなってしまったのです。
教育においても、いわゆる名門大学に進学させることが本当に子どものためになるのか――私は教員にそうした問いを常に投げかけているのですが、国も農業・工業・商業系の学校に対して、教育環境の整備や人材育成に向けた支援を強化する方向にあります。
公立学校の立て直しを図る、いわゆる「ネクストハイスクール構想」もその一例です。教育政策全体としても、予算や人材をこの分野に重点的に振り向ける方向へとシフトしています。
そんな未来、知識以上に重要になる力とは?
生井さん まず組織の中で働く上で、最低限のスキルとしてコミュニケーション能力は必要です。今はデジタル時代で、YouTubeやスマホを見る時間が長くなっています。それ自体は悪いことではありませんが、人と対話する時間が極端に少なくなってきている。家庭では、せめて食事をする時間くらいはスマホをやめて会話をするなど、コミュニケーション力を育む機会をつくることが必要です。ソーシャルワーカーの仕事でも、お客さんと話をすることは非常に重要ですから。
そしてもう一つ重要なのが、オリジナリティです。AIを使った文章や絵は、「これはAIだな」と分かる独特な癖のようなものがあります。だからこそ、独自性と自分の言葉で人に伝える力が、これからより求められていくと思います。また、人に好かれる人でなければ人は寄ってきません。つっけんどんな態度をとる人は、やはり孤立してしまう。人としての魅力をベースに持ちながら、自分らしく表現する力を身につけておいた方がいいと思います。

社会に出て活躍する人とそうでない人との違い
生井さん 社会に出て活躍する人材には、いくつかの共通した特徴があります。
一つは「着眼と構想力」です。目の付け所がいい人、そしてそれを構想として形にする力がある人は、やはり強い。例えば、以前学校の生徒会が「ポロシャツを作りたい」と提案してきたことがありました。学校を動かそうという着眼点そのものが素晴らしく、さらに「そのために企業を紹介してほしい」と、実現に向けた具体的な提案まで持ってきました。実際に企業や学生服メーカーなど、私が得意とするネットワークに繋げられるところまで考えていたことが評価できました。こうした着眼と構想力を持つ人は、社会に出てからも、様々な形で活躍できます。
もう一つの重要な力が「エフェクチュエーション」です。神戸大学の吉田先生が提唱している考え方で、「手中の鳥」という論理なのですが、自分が今持っているリソースでまずやってみる、というアプローチです。目の前でできることをスピーディーに実行していく力であり、起業家に強く求められる能力です。
着眼力、構想力、そしてエフェクチュエーション、これが揃うことが、これからの社会で活躍するために重要だと思います。
第二回に続く。